HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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LAST/石田衣良
石田先生の文庫本には「文庫版あとがき」が入っている事があって、それが愛読者にはとても嬉しい。今回は各作品に対する思いとかその作品を書いていた時の自分の状況などが書かれていてとても面白かった。特に先生が『4TEEN』で直木賞を受賞した時のドタバタぶりが何か微笑ましい。当時1時間おきの取材が1日6件もあり、そんな日が週に3日もあって大変だったと言っているが、今はひと月に取材が40件もあるんだそうだ(笑)。何故、と言うけどそりゃ先生、あなたのスノッブでソフィスティケイトな雰囲気と、作品の持つバイオレンスや堕落というキーワードとのミスマッチに惹かれてしまうのではないでしょうか?間違いなく、私もその一人なんだけども。
  「LAST RIDE」は町の製本会社を営む男が、悪徳な小切手金融に借金を肩代わりされて破滅してゆく物語。家族を売るか自分の命で借金を清算するか迫られた男の決断の行方は?というテーマだ。いつも最後にスカッとした結末を用意してくれる事の多い石田先生の物語にしては何かモヤモヤする終わり方。でもそれが逆にとても好感が持てた。物語には希望とか絶望とか、いろいろな結末があっていいよね、と思わせる作品だ。「LAST JOB」は住宅ローンに追われる妻が出会い系サイトで身障者と知り合う話。身障者のセックスをリアルに描いているが、それぞれが抱える問題や悩みが巧くリンクしていてちょっと切なくなる。「LAST CALL」は軽い気持ちでテレクラに入った男が衝撃的なシーンを迎える物語。先生はホント風俗に詳しいな~。テレクラってそういうシステムだったのか、と勉強になりました(笑)。でもホラーな結末は、かなり好み。
 「LAST HOME」は上野のホームレスを題材にした物語。私はホームレスには同情できないと思っていたけど、その原因は人によって様々だしその暮らし方は意外と秩序が保たれているようだ。作者が気に入っているというミチヨ、これの性別が何度読んでも良く分からなかったんだけどね…。「LAST DRAW」は盗難通帳から金を引き出す“出し子”をモチーフにした作品。 こんな簡単にお金って引き出せるものなのか、と思ったけど当時は銀行のチェックもこの程度だったらしい。『溺れる魚』の小気味いいラストのような軽快な終わり方が良かった。「LAST SHOOT」はヴェトナムのニャチャンを舞台にした少女売春の話。少女売春なんて悪趣味な、と思うけれど変態には変態の悩みがあるものなのだなぁという事を学んだよ。しかし少女の膣を大きくする漢方薬が実在するという話にはビックリ。かなり衝撃的なラストにもビックリだ。「LAST BATTLE 」は借金から身を持ち崩して街の看板持ちとなった男の物語。実際ヤクザの抗争にロシアンルーレットが使われる事なんてないだろうけど、「いや、もしかしたらあるのかも?」と思わせてしまう構成が秀逸。あんな事しちゃって、彼のその後が気になる物語だ。
  これまで読んできた短編集の中でも一位二位を争う面白さ。石田先生のテイストが存分に活かされた作品ばかりだ。物語はここまでコンパクトな文章量でも充分面白いものになるのだ、というお手本のような本。引き算の美学、みたいのを感じたなぁ。京極先生にもその手法を是非学んで欲しいと思うような傑作。石田先生ファンなら必読、短編好きの人は要チェック、社会派ミステリ好きにもお薦め。リアルとフィクションというのはこういう狭間で表現するとエンタテイメントになるのだという見本のような短編集、世のクリエイターに是非読んで欲しいと思う一冊だ。
LAST (ラスト) LAST (ラスト)
石田 衣良 (2005/08/12)
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悪魔の降誕祭/横溝正史
読み尽くしたと思っていた横溝正史も、今になって新刊が発売されるのでビックリしてしまう。いづれも文庫になるのは初めてのようだが、今回は金田一探偵の様々なプライベートが明かされる貴重な短編集と言えるかもしれない。
『悪魔の降誕祭』は、世田谷区緑が丘にある金田一の事務所で起きた殺人から連続殺人に発展してゆく事件を暴く物語。複雑な家族構成、美しい妻と才気ある美青年、身体的障害を負った不遇の娘、洋館でのクリスマスパーティ、そんな設定の中で起こる殺人事件の犯人は意外にも…というお話。時間と言葉のトリックがキーワードとなる正統派な探偵小説だ。相変わらず青酸カリが普通に使われている所に違和感を感じるが、何故犯人がそんな薬物を手に入れられたのか、という説明も一応されているので無理矢理納得。戦後っつーのはドタバタしていたんだなぁ…と思えば良しとしましょう。そんな事よりも、その犯人の悪魔性というものに強く惹かれた。人間の心の奥底に潜む悪魔を目にしてしまった時の恐怖、それが印象に残る物語。なかなかの秀作なのではないでしょうか。
 『女怪』は、金田一が心を寄せる銀座のマダムに関わる物語。あの野暮天を絵にしたような金田一に「好きで好きでたまらない」と言わしめたマダムの非業な人生を描く。しかしこれはたくさんの“無理”がてんこ盛りの作品だ。検死官をなめちゃイカンよ!…まぁ昔は検死もそんなモンだったのかもね…と思えば良しとするか?うーん、それでもその後の展開にはちょっと疑問が残るが…。金田一のプライベートが吐露されて、今まで見たこともなかったような彼の一面を垣間見れる貴重な一作、とだけ言っておきましょうか。
 『霧の山荘』は、トリックは簡単だけどよく作り込まれた作品という印象だった。避暑に訪れた別荘地で金田一は映画スターの姪から奇妙な話を聞かされる。その真意を確かめるためにスターの別荘に向かった金田一はそこで彼女の死体を発見するのだが、数十分後に現場に行くと死体はキレイに消えていた…という事件。その後、彼女の死体が別の場所で発見されて事件は違う局面に発展してゆくのだが、小さな証拠品と犯人が知り得なかった事実から事件の全貌を解決した金田一。これも探偵小説の楽しさが存分に味わえる作品だ。これと似たようなトリックを使った作品は現代ミステリでもよく目にする。それをもっと大規模にしたのが綾辻行人の『黒猫館の殺人』ではないだろうか。この作品はトリックに荒さが目立つ綾辻作品の中でもなかなかに優秀な作品。併せて読むと面白いかもしれないな。
 私は一人の探偵が次々と事件を解決してゆくシリーズものはホームズ以外あまり好きではなかったのだが、それを覆したのが金田一耕助である。彼の朴訥とした人柄からは想像もつかない頭脳の明晰さと、たまに失敗してしまう人間らしさ、敢えて犯人に逃げ場を与える優しさを併せ持つ人間性に、愛さずにはいられないような愛嬌を感じるのだ。『悪魔の降誕祭』は、そんな金田一の性格が存分に活かされた物語。彼を愛する読者なら、読んで損はないでしょう。
悪魔の降誕祭 悪魔の降誕祭
横溝 正史 (2005/08/25)
角川書店
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