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HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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アクロイド殺し/アガサ・クリスティ
『アクロイド殺し』は探偵小説のトリック解説などに必ず登場する程の名作である。今となっては珍しくない手法だが、当時はこのあまりに斬新なトリックに世間が戸惑ってしまったのだろう。私がこの作品を初めて読んだのは中学生の時だったと思うが、真犯人が分かった時の衝撃を今でも覚えている程だ。クリスティの作品はほとんど読んだが、私の中のNo.1は間違いなく『アクロイド殺し』である。ただ、当時は『アクロイド殺人事件』って題名だったような気がするけどね。
 トリックも分かってるし、犯人も分かっている。そんな状態で探偵小説を読んだってちっとも面白くないだろう!と思うかもしれないが、今回の目的は“トリックの再確認”なのでいいのだ~。トリックこそ探偵小説の醍醐味!最近の探偵小説では味わえない楽しみと言っても良いだろう。本文の中にひっそりと重要な一文が紛れていたり、時間を操作するような表現があったり。その小さな「?」に気づいた時の感動。私は物語を咀嚼しながら読むタイプではないので、そういう重要な一文を読み飛ばしてしまうかもしれないのだ。今回はじっくりと物語を咀嚼して、仕掛けられたトリックの穴を見つけだすぞぅ~!
 そういう状況でこの作品を読むと作者の意図がよく分かり、やはりこの作品はトリックものの探偵小説として一級品である事が実感できる。しかし…それでも読み切れなかったトリックがまだあったのだ!巻末の解説に「アガサはこの作品にごまかしがある事について次のように釈明している」という一文があるのだが、そのごまかしについては今回もどこだか分からなかった…。ウガー!どーして私はそういう細かい作業が苦手なんだろう?悔しいよぅ。
 この作品はエルキュール・ポアロが活躍する物語。しかし既に彼は引退していて、事件が起こった小さな村でカボチャ作りに精を出している、という設定になっているのでビックリだ。どうも引退して養蜂業に勤しんでいたホームズを思い出さずにはおれない…。この作品が書かれたのは1926年、という事は1887年にデビューしたホームズの方が先輩という事だね。この作品の筆者は医師のシェパードなので、「ポアロの活躍を記録するワトスンのような役割をする事になった」という一文があるのが笑える。初めてクリスティを読んだ頃、私はポアロがあまり好きではなかったのだが、それは私があまりにホームズに傾倒していたからかもしれない。ホームズにない知的な部分を認めるのがイヤだったのかもね、子供だったから!「人間性の研究」に興味があると言ったポアロの方が心理的、扇動的に捜査を進めるのが巧いようである。ホームズを全巻揃えた後の目標は、改めてのクリスティ全巻制覇!かな?
アクロイド殺し アクロイド殺し
アガサ クリスティー (2003/12)
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巷説百物語/京極夏彦
久しぶりの京極作品~♪と文庫本を手にしたが、まさかこれが角川書店から出ている本だとは思わなかった。装丁が講談社文庫そっくり。人形の制作者もカバーデザインした会社も全く同じなのだ。センセイの指定かもしれないけど、これってアリなのかしら?って感じ…。まぁこの百物語シリーズのハードカバーは角川から出てるので問題ないのかもしれないけどさ。
 怪しげな御行一味が巧みな罠をしかけて事件を解決する、コン・ゲームもののミステリ。妖怪時代小説という新しいシリーズらしいが、私はこういうストーリー大好きなのよね。ただ、いろんな人が出てきていろんな人に化けていろんな言葉で拐かされる物語なので、登場人物の背景をしっかり把握して読んでないと訳わかんなくなる。江戸時代の話らしいので、職業や人の名前が古めかしいのも混乱する理由の一つ。まぁWOWOWで放映されていた『怪』を観ていれば分かりやすいかもしれないけど。
 罠を仕掛けて事件を解決して最後にネタ明かしする、という物語なのであらすじを紹介できないのが残念だが、どれもよく出来た仕掛けで面白い。が。どの物語にも第三者の語り口調で物語が進んでいくという章があるのだが、そのスタイルはちょっともう古いかな~。何かを説明するために、聞き手の質問を聞き返すという設定のセリフ回しがちょっとウザい。ちょっと昼ドラっぽい、偶然すぎるような危うい仕掛けもあったりするので、物語に完璧を求める人にはちょっとツラいかもね。
 収録されている7篇の中では『小豆洗い』『舞首』『帷子辻』が面白かったかな。ばかばかしさで『芝右衛門狸』もまぁまぁ。『白蔵主』は物語が分かりづらかったのでイマイチ。『塩の長司』も結果がイマイチ。『柳女』は仕掛けがイマイチ。ハードカバーでは続編も出ているようだ。大好きな京極センセの新シリーズ、テイストは似てるので今までの作品は長すぎてちょっと…という人にお薦めである。
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京極 夏彦 (2003/06)
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西郷札/松本清張
タイトルに惹かれて、実家の書庫から借りてきた作品。松本清張は好きなのだが、学生の頃読んだっきりだから20年振りくらいだ。しかし『壬生義士伝』 以来、幕末に興味を持った私としては、「西郷」なんてキーワードを見逃す訳にはいかないのだ!
 『西郷札』は西南戦争の際に薩軍が発行した軍票の買い上げで一攫千金を目論んだ男が、謀られて破滅していく物語。昭和の現代に新聞社が開催するイベントの資料として「西郷札」が出品され、それを調べてゆくうちに「西郷札」にまつわる上記の物語が明らかになってゆくというミステリ仕立てになっている。いかにも元新聞記者だった松本清張らしいプロットの物語である。
 それ以外の時代小説は、徳川時代の初期のものと幕末から明治維新にかけての時代のもの。維新後に一人の旧幕臣が辿った人生を描く『くるま宿』、江藤新平の末路を描いた『梟示抄」(ぎょうじしょう)』、同年同月同日に生まれた三人の子が維新後にどのような人生を歩んだかを描く『秋々吟』、昔の隠し子を巡る事件を描いた『権妻』、添い遂げる事のできなかった初恋の女性を思い続ける『恋情』が幕末から明治の作品である。明治維新が、当時の幕臣にとって如何に大きな波であったかが窺える物語ばかりだ。
 家康に引き立てられていた本多正純の人生を描く『戦国権謀』、領地替えによって起こった悲劇を描く『酒井の刀傷』、家光に仕えた大老の子孫が辿る人生を描いた『二代の殉死』、恐ろしい容貌を持って生まれた家康の子の人生を描いた『面貌』、あらぬ噂によって人生が狂わされた男の物語『噂始末』、一晩の遊びの残り香が事件を引き起こす『白梅の香』は徳川時代の物語。当時の藩主の目に見えない苦労が分かった気になった。
 全てが史実ではないだろうが、フィクションとのバランスが素晴らしい。泰平の世へ動いてゆく徳川時代の初期と、民主主義の確立へ動いてゆく明治時代という二つの時代。それぞれの社会情勢を人生に絡めた物語の見事な構成力、描写力。現代小説だけではない、松本清張の魅力が堪能できる一冊だ。しかし家康の死因が“鯛の油揚げによる中毒”って…。油で揚げてあるのに中毒?第一、油揚げって唐揚げや天麩羅とは違うのか?鯛の油揚げなる食物が如何なるものなのか、是非一度食してみたいものである。
西郷札 西郷札
松本 清張 (1965/11)
新潮社
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