HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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オデッサ・ファイル/フレデリック・フォーサイス
以前この本を読んだ頃、私はドイツにかぶれていた。ドイツが好きで好きで、いづれは絶対ドイツに住むんだと密かにドイツ語の勉強なんかもしていた。しかし『アンネの日記』には、かなりへこたれた。ナチスが行った非道で身勝手な政策の数々。しかしそんな時代の中で、国防軍として本当に国のためにと戦った人たちもいたのだ。そんな人たちにSSはどんな事をしたのか?老人の日記には、彼らが同志に対して行った行為も書かれていた。そんな彼らを救う組織が世界で暗躍している、という事実に基づいて書かれたのが本書である。この本を読み終えた時、どこにぶつけたらいいのか判らないような虚しい怒りを感じてしまった。
 物語はエジプトのロケット計画と、ミラーのロシュマン追跡劇とが平行して進んでいく。エジプトのロケット計画に深く関わっているナチス残党と、ロケット開発を阻もうとするイスラエルの組織。それらがオデッサという組織に繋がり、ひいてはミラーが発見した日記によって追われる事となるロシュマンに関わってゆく事になるのだ。事実とフィクションが渾然一体となって進んでいくフォーサイスならではのスリリングな展開。当時の世界情勢とそれぞれの力関係が分かっていた方がより楽しめるが、私のように知識ゼロの状態で読んでもそのスケールの大きさと素晴らしい着眼点に圧倒される。ストーリー上それはちょっと無理があるんじゃあ…と思われるような設定も、気にならないくらいだ。
 その無理めな設定も、なぜミラーがロシュマンを執拗に追跡するのかが分かると納得できる。あまりに狂人じみたミラーの行動に一時は引いてしまったが、理由がわかればキレイにまとまるというものだ。ちょっと皮肉な終わり方もイイ。そしてナチスという負の遺産を背負った次の世代のドイツ人の苦悩は、日本人である私たちにも通じるものがあって心が痛い。
 フォーサイスの作品が気持ちイイのは、全てがハッピーエンドではないところだ。ハリウッド映画のように何もかも丸く収まって善が勝つ、なんて現実ではあり得ない。諦めに近い絶望感と、それでも悪は裁かれるのだという期待感をうまく織り交ぜた終わり方に余韻が残る。善を悪が追っていくという追跡劇にハラハラしながら一気に読める社会派小説。フォーサイス作品に出てくるヨーロッパの名車たちをネットなどで追跡してみるのも面白い。
オデッサ・ファイル オデッサ・ファイル
篠原 慎、フレデリック・フォーサイス 他 (1980/05)
角川書店
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心の砕ける音/トマス・H・クック
「このミステリーがすごい」と「週刊文春ミステリーベスト10」の常連であるトマス・H・クックの新作。この作品はクックの代表作である記憶シリーズの次に発表された作品で、2001年度の「このミス」では5位にランクイン。記憶シリーズに比べると胸が痛くなるような切ない物語ではなくなっているが、よりミステリっぽい設定になっている。ファンとしては記憶シリーズの方がショッキングで良かったが、こちらも謎が謎を呼ぶ展開でなかなか良い。キャラ設定や舞台設定に惑わされない、クックは本当にストーリーテラーだなぁと感心させられる。
 とは言え、物語の設定は大変わかりやすい。どこか影のある美女に惹かれていく弟、それをどこか心配しながら見守る兄は彼女の過去を知る事になり…あとは、言わずもがなって感じ。問題は、彼女は一体何者なのかって事と、弟を殺したのは本当に彼女だったのかって事である。彼女の正体は物語が進むに連れ想像がつくのだが、それがちょっと意外な結果だったのだ。大半の読者は騙されたんじゃないかと思う。弟の死に関しては、結末を知ると案外あっさりって感じ。しかしやり場のない辛さ切なさっていうテーマは、相変わらずクックの十八番のようである。
 そしてラストもねぇ…。あれじゃあオトナすぎてちょっと納得できない。つい最近読んだ短編に双子の兄弟を好きになってしまう女性の話があったが、兄弟だろうと双子だろうと、所詮は違う人間なのである。どっちも好きなんてあり得ないし、どのような結論を出したって誰かは傷つくのだ。だったら傷つく人間が少ない方がいいのではないかと私は思ってしまうのだが。人を好きになる気持ちなんて、そんな簡単に制御できるものではない。どっちも選べなかったんだったら、どっちもそんなに好きじゃなかったんじゃないの?この恋愛物語に夢中になれなかったのは、ドーラのキャラクター設定のせいかもしれないな。好きになってはいけない人を好きになってしまってどうしよう~みたいなジレンマとは無縁な女性だったし、ドーラって。
 男性の視点から見た恋愛模様がメインなので、男性が読んだら共感できるところもあるのかもしれない。私は女性キャラに魅力がなかったのでイマイチ入り込めなかったけど。どちらかと言うと兄のキャルが地方検察官なんて固い仕事に就きながら恋人もつくらず、唯一の楽しみは毎週の売春宿通いっていう設定の方が面白かったよ。エリートサラリーマンって、どっか歪んだところがある場合が多いからねぇ。イイ年したオトナが“初めての恋”におろおろして自分を見失っていく物語。一言言わせてもらうなら、「若いうちに飽きるほど恋愛しとけ!」って感じかな。
心の砕ける音 心の砕ける音
トマス・H. クック (2001/09)
文藝春秋
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戦争の犬たち/フレデリック・フォーサイス
昔は戦争ものはあんまり好きじゃないから…と敬遠して読んでいなかった『戦争の犬たち』。多分学生の頃読んでも、理解できなかっただろう。何しろクーデターを起こすまでの描写は専門用語だらけ。『レインボーシックス』などである程度予備知識がある今読んでも結構大変だった。武器などの軍事用語だけではない。ジェームズ卿の陰謀は、プラチナを手に入れた後の株対策にまで及ぶ。経済から軍事から、ホントにフォーサイスの知識の深さや計画の緻密さには驚かされる。
 ジェームズ卿はクーデターの実行を傭兵のキャットに依頼する。物語はジェームズ卿の陰謀と、キャットの策略が平行しながら進み、そこにプラチナを横取りしようと考えるソ連の思惑も絡んできて…という展開なのだが、ソ連の介入の仕方がちょっと甘かったかなー。私としてはもっと悲惨なクーデターの結末を想像していたのだが。『オデッサ・ファイル』で使っちゃったからその手はないかな、とも思ったけどね。
 本書を読んでしみじみ思ったのは、「我慢強くなきゃ金儲けはできないんだな」って事と「手先が器用じゃなきゃ悪い事はできないんだな」って事。どっちも私に欠けている資質だ。フォーサイスの作品に出てくる主人公は危ない物や怪しい物のカムフラージュに大層な細工をするのだが、あんなの不器用な私には絶対無理!また計画を実行するにあたっていろんな所に種を蒔いて、芽が出るまでじっと待つなんて短気な私には絶対無理!つまりはそんなお話を考えつく事もできないという事である。フォーサイスは我慢強い人なんだろうなあ…。『ジャッカルの日』の印税で本書さながらのクーデターを計画していたという噂も、あながち嘘じゃないのかも。
 でもやっぱり戦争ものは後味が悪い。罪のない人が国や個人のエゴであっけなく殺されていくのには抵抗があるなぁ。自分に恨みを持ってる人間に殺される、という方がまだしっくりくる。何はともあれ、社会派小説は読むとどっと疲れる。特に本書はいろんなジャンルの情報が満載だったのでとても大変だった。と言いながらも上下巻を1週間くらいで読んだので私にしては早い方だと思うのだが。次はヌルヌルの探偵小説が読みたいなー。同じ考えるなら知識のないところを想像力で補う努力より、仕入れた情報で犯人を想像する努力の方が楽だもんね。
戦争の犬たち (上) 戦争の犬たち (上)
篠原 慎、フレデリック・フォーサイス 他 (1981/03)
角川書店
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戦争の犬たち (下) 戦争の犬たち (下)
篠原 慎、フレデリック・フォーサイス 他 (1981/03)
角川書店
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地球儀のスライス/森博嗣
解説者があとがきでお薦めしたのは『小鳥の恩返し』『石塔の屋根飾り』『僕は秋子に借りがある』だった。私のお薦めは『小鳥の恩返し』『片方のピアス』、強いてもう一つ挙げるなら『河童』かな。二人のお薦めである『小鳥の恩返し』は、ちょっとしたフェイクに驚かされてちょっとしたギミックに騙されて、最後は真実を知って切なくなって。いろんなお楽しみがぎゅっと詰まったお話だ。こういう短編を書けたら、小説家は楽しくてしょうがないだろうと思う。
 次のお薦め『片方のピアス』は、双子のお話。私は双子が大好きなので、興味津々で読んだ。私が中学生の時好きだったのはテニス部の先輩、双子の弟の方だったなぁ…なんて思い出したりして。双子ネタなら誰もが考えつくようなトリックなんだけども、私の“双子好き”が貢献したって感じかな。
 『素敵な日記』は、アイディア勝負の作品。『僕に似た人』はちょっとファンタジー入ってて分かりづらかったので読み飛ばしてしまった。犀川と萌絵が登場する『石塔の屋根飾り』と『マン島の蒸気機関車』は私的にはイマイチだったが、本編で脇役だったアノ人が大活躍する様は小気味よかったかな。 『有限要素魔法』も不思議系のお話だけど、私は結構好き。死というものは結構すぐそばにあるものだよ、なんて事を考えたりした。『河童』は幼い頃の田舎の想い出をツラいと思っている人には向かないだろう。古傷を抉られるような切なさが漂う。『気さくなお人形、19歳』はVシリーズの小鳥遊君が登場するが、私はこのシリーズは嫌いなので。オチも想像通りでひねりがない。ダメである。『僕は秋子に借りがある』も、テレビのショートドラマくらいだったらいいかもしれないが、小説で読むとネタばればれである。女の子のキャラクタも好みじゃない。オチに気づいてないのは主人公だけ?って感じだな。
 そんな感じの短編集。これまでの短編集(『まどろみ消去』『今夜はパラシュート博物館へ』)に比べると、イマイチな仕上がりだ。犀川シリーズを全て読まないと気が済まない!という人にだけお勧めする。でもこのシリーズもいい加減ネタ切れなのかもしれないなぁ…。次回以降の刊行予定は全てVシリーズなので、しばらくは森作品ともお別れかもね。
地球儀のスライス 地球儀のスライス
森 博嗣 (2002/03)
講談社
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