HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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死体は語る/上野正彦
犯人が見つからない殺人事件などが起こると、テレビのゲストコメンテーターとして呼ばれる事も多い上野正彦。本書の存在はずっと知ってはいたのだが、やっと文庫化されたので読んでみた。しかしこの本が最初に発表されてから既に12年が経過している。その間に科学捜査の技術は格段に上がっているんだろうなぁ、監察医を取り上げたドラマや小説も数多く発表されているし。と言うわけで鑑定方法の古さなどは否めないが、本書はパトリシア・コーンウェルの『検屍官』シリーズのように最先端の科学技術をひけらかす本ではない。そこが、この本がベストセラーになった由縁なのであろう。
 例えば偽装殺人。死体の首に残った痕から、かけた紐の角度や力がわかる。生前に受けた傷なのか死後に受けた傷なのか、死体に残された痕を見ればわかる。水の中から見つかった死体の場合も、溺死したのか殺害された後に水に放り込まれたのかわかる。しかし本書では“なぜそんな事をしなければならなかったのか”というところにスポットを当てている所がフィクションとは違うのだ。著者の優しさとでも言うべきか。著者が経験した事件から、小説にありがちな理由なき殺人とは違うリアリティと、人間の情の深さや悲しさが浮き彫りになってくる。
 事件の現場には様々な人間模様があるものだ。特に保険金が絡んだ時には、その浅ましさに悲しい気持ちになる程の問題がある。この本では、人の死にまつわる様々な“その後”を紹介している。それは殺人事件の解決であったり、残された遺族の闘いであったり、逮捕後の犯人の人生であったり。安楽死など、止むに止まれず肉親を手にかけてしまう場合もある。生と死とは、常に背中合わせなのだなぁと思わずにはおれない。そして生命に値段をつける事はできるのだろうか、なんて事も。保険金しかり賠償金しかり、人が死ぬ事によってお金がもらえるっていうのには何となく違和感を感じるなぁ。それ以外に遺された者の怒りや悲しみを納めるものがないのかもしれないけど。
 この本の中で著者は何度も「死後も医者を選べ」「監察医制度を全国に広めなければ意味がない」と言っている。それは全て、死者への思いやりから著者が感じた事である。人間は死んだ後もその人権を護ってやらなければならないという、著者の強い信念をひしひしと感じる。どうして彼は死んでしまったのか、それを解明してやる事が死者への餞だと言うかのように。そこが推理小説などと圧倒的に違う部分だ。探偵主体で展開される物語ではなく、この本の主役は死体なのである。かなりリアルな死体描写があるのでダメな人もいるかもしれない。しかし「事実は小説より奇なり」という言葉を地でいく人間模様は、悲しいだけではなく狂おしいほどの愛情を感じるエピソードであったりするものだ。
死体は語る 死体は語る
上野 正彦 (2001/10)
文藝春秋
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

夜光虫/馳星周
この本がハードカバーで発売された時、仕事絡みで読んだにも関わらずラストで大泣きした。そして馳 星周が大好きになった。『不夜城』も良かったけど、こんなに切ない気持ちになる話ではない。今でも、馳作品のナンバーワンと言ったら『夜光虫』だと私は思う。そのくらいの傑作。だから文庫になった時、速効で買った。その他の馳作品であのバイオレンスさがダメだった人でも、これならOKなのでは。
 うまくいかない人生に自暴自棄になってマフィアと関係を持ち、ひょんな事から殺人を犯してより深みにはまっていく男の物語。主人公はたった一人の女性に執着するが故に、どんどんその身を崩してゆく。そんな設定はいかにもな馳ワールドなんだけど、他の作品と大きく違うのは主人公が執着する女性が堅気だって事だ。親友の妻である女性に一目惚れして、密かに彼女を想い続けた彼が犯してしまった大罪。でもそれは物語のほんの序章に過ぎなかったし、精緻に組まれた計画の中ではほんのひとコマににしか過ぎなかった。その計画の黒幕は誰か?そしてその計画の結末は?読み出したらもう止まらない、止められない。そして最後に待っている、切ないエンディング。このバランスがたまらないのよ、いろんな意味の愛情に捕われた男が狂っていく様をバカだなあと一言ではすませられない執念を感じるのだ。
 人を貶めようとする時の原動力は“悪意”と“憎悪”であるが、主人公の裏切りは、そのどちらにも当てはまらない行為だったのが悲しい。彼は結局、他人に操られる事しか出来なかったのだ。保身のために重ねた罪も、操る側にしてみれば都合のいい出来事でしかなかった。愛する女性とやっと築いた幸せも、相手につけ込まれる餌にしかならなかった。その事に気付いた彼が必死で這い上がって果たした復讐。「しらを切れ、ごまかせ、丸め込め。」そうやっていろんな人を騙してきたのに、結局彼が手に入れたものは何だったんだろう?彼は何のために台湾まで行ったんだろう?なんて事は本人が一番考えてる事だと思うけど、あまりに苦しい物語である。
 台湾っていうのは不思議な国だ。これまでも『不夜城』などで読んで知ってはいたが、その複雑な歴史に翻弄されたお国柄というのはまだよく分からない。老人が日本語を話す国。台湾語と北京語が入り交じった国。キーマンである王東谷は「自分は皇民だ」と言う。天皇陛下を日本国民以上に尊敬している。今、向こうは日本ブームらしいが、その歴史の背景を若者は知っているのだろうか。そんな事を考えてしまう。でもちょっと行ってみたいとも思う。加賀が口にしていた“びんろう”って何なんだろう?食べ物は辛いのかな?『漂流街』なんかよりこっちを映画化した方が異国情緒たっぷりでいいのにな。国が違っても、人を愛する気持ちは同じである。それでいて家族の絆というテーマに直面せずにはいられない話で、泣けてくるよ。
夜光虫 夜光虫
馳 星周 (2001/10)
角川書店
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安楽病棟/帚木蓬生
このHPで感想文を書くようになる前から、箒木蓬生は好きな作家だった。ここのところあまり好きなテーマの本がなかったのでご無沙汰だったが、『閉鎖病棟』以来三年ぶりに読んでみる事にした。精神科医として活躍している筆者が描く医療の世界、そこには底知れぬリアリティとドラマティックな結末が待っているのだった。
 最初は様々な老人が自らの人生を語る、というスタイルで始まる。何故彼らが痴呆病棟に入らなければならなかったのか、それはどれもあまりに切ない物語だった。その背景は様々だ。しかしそこには、人間として避けては通れない“老い”の現実がリアルに描かれている。これは読んでいて結構ツラかった。私もいつかはこういう時を迎えるのだ。子供がいない夫婦が年老いていった時、お互いを思いやるという気持ちをどれだけ持てるものなのか。そんな事をしみじみと考えてしまったよ。
 10人以上もの患者を看ている看護婦の視点で語られる病棟での物語は、耳に優しい語り口調でとても読みやすい。登場人物が多くて覚えるのが大変なのだが、患者のプロフィールをさりげなく語る造りになっているので助かった。前述の通り、最初にそれぞれの患者の入所のいきさつが語られているので感情移入しやすい。そんな中、患者が死に直面するシーンではかなりグッとくるものがある。それがまさかあんな実験の結果だったとは…って、それは医師と彼女の会話を読めば想像つく話なんだけどもね。
 『閉鎖病棟』もそうだったのだが、切なくて残酷な物語に花を添えるのが淡い恋心というテイストだ。箒木蓬生はその辺のバランスがめちゃくちゃウマい。あざとくなくしつこくなく、殺人という行為の中にひっそりと恋する気持ちを絡ませてくる。それはまるで桜が散ってゆく様を見ているような、スローモーションの世界なのだ。ここのところバイオレンスな物語ばかりだったので、久々に清涼感のある終わり方で気持ちが和んだ。けれど、この物語が問いかけてくる問題はあまりに重い。人間はいつか必ず年老いていって、身体も思うようには動かなくなって、ついには物事の判断すらできなくなってしまう。それを動屍と呼ぶのは果たして正しいのだろうか。安楽とは一体何なのか。私はこの本を読んで、自分の生き方をしみじみと考えさせられたよ。夫婦が二人で暮らす意味とは何なのか。私は、二人で語り合って感じ合いながら人生を作っていく事ではないかと思う。もし私が植物状態や重度の痴呆になってしまったら、その目的は果たされなくなる。そんな私でも生きていた方がいいと旦那は思うだろうか?やっぱ私は医師の考え方と同じだな。私は「自発的安楽死」の道を選ぶわ。意思表示の書類を入院前に作っておかなければね。
安楽病棟 安楽病棟
帚木 蓬生 (2001/09)
新潮社
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