HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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奪取/真保裕一
織田裕二主演で映画化された『ホワイトアウト』の作者と言う事で、初めて読んでみた真保裕一。初めての作品が『奪取』とは、我ながら渋い選択だったと思う。て言うか、どうせ読むなら『ホワイトアウト』にすれば良かったよ…。破天荒なストーリー、でたらめな展開、そして魅力のない登場人物たち。上巻を読み終わった時点で下巻は買わないぞ!と思っていたのだが、職業柄つい気になって読破してしまった。何かちょっと悔しい。
 何が気になったのかと言うと。それはこの作品で事細かに説明されている印刷の知識だ。偽札造りと言えば、印刷である。宣伝部員の私と印刷、出版社と印刷は切っても切れない間柄。印刷の世界に携わって10年、どんな専門知識もドンと来い!みたいな気分で読み始めたのだが。さすがに紙幣の印刷はめちゃくちゃ難しかった。紙幣っていうのは、その国の印刷技術の粋を集めた最高の印刷物なのである。実際に印刷所を見学した事のある私ですら想像、理解するのに必死だったのだ。印刷の知識がない人が読むのはかなり辛かったんじゃないかなぁと思うぞ。
 彼らの最初のターゲットは、ATM。機械をだまして偽札を両替し、現金を手に入れようという大胆な計画である。実際に彼らが大金を手にするまでの間、物語は延々とコンピュータとスキャナの説明に費やされる。この作品が発表されたのは1996年、当時のマシンの性能はメチャクチャお粗末だ。今ならもっと簡単に偽札が造れそうだねっ!この辺のくだりはコンピュータの知識があった方が理解が早い。dpiとか色調補正とか、Photoshopを使った事のない人にはちんぷんかんぷんかもね。
 その後、名前を変えて印刷会社に就職した道郎は、新たなパートナーを得てより精密な偽札造りに挑戦する。ここから先は、製紙と印刷工程の知識が満載だ。スクリーン線数と解像度の違いとは。三大版式の意味とそれぞれの特徴とは。我が企画宣伝局員の若者に是非とも読んで欲しいと思うような一冊。でも物語の結末は、何ともお粗末。これは“やっちゃった”系のオチだと私は思うのだが…。作者はあとがきで「連載時とは物語が変わってしまったが、こっちが当初の目論み」と言っている。新聞連載時の結末はどんなだったんだろう。そっちの方が気になるけれど、少なくとも本のカバーにあった「ユーモアあふれる筆致」とは程遠い作品だった事に違いはないだろう。印刷の知識以外では何一つ楽しむ事のできなかった作品。…やっぱ『ホワイトアウト』から読めば良かったな…。
奪取〈上〉 奪取〈上〉
真保 裕一 (1999/05)
講談社
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

鎮魂歌-不夜城2/馳星周
数年前にハードカバーで読んだ『不夜城』の続編の文庫本版。登場人物のほとんどは中国人や台湾人なので、名前が中国読みである。それが覚えられなくて苦労した。本を読んでいる時、漢字の読みにひっかかると一瞬頭が止まっちゃうんだよね。また登場人物がめちゃくちゃ多くて、誰が北京の人だか上海の人だか分からなくなっちゃったりもする。何しろマフィア以外にも金貸しやら人戦やら日本のやくざやらを巻き込んでの大騒動である。これは絶対に前作を読んでおく事をお薦めする。
 前作ほどの感動はなかったが、大好きな馳先生の作品だ。スピード感のある文体、細部まで練りこまれた仕掛け、印象的な健一のモノローグ。全てが好みで、あっという間に読んだ。人を信じる気持ち、人を愛する気持ち、人に騙される気持ち、人を裏切る気持ち。裏社会で生きる男達の鮮烈な生き様を堪能できる、切ない物語である。
 抗争の舞台は歌舞伎町。言わずと知れた繁華街、私も年に数回は利用している。滝沢が人戦メンバーと待ち合わせたのは落合下水処理場。高田馬場にあるテニススクールに行くのに使っている裏道は、まさにこの下水処理場の脇を通る。クライマックスでの銃撃戦の舞台は、花園神社。ここは酉の市に何度か遊びに行ったし、前の会社のすぐ近くであった。知ってる場所ばっかりで凄惨な事件が起こるので、臨場感もバツグン。堅気とは言え、歌舞伎町を歩くのはやっぱり怖いよぅ。そして極道の女がどのような目に合うかも、知れば知る程怖ろしい。もちろんこれはノンフィクションだって事は分かってるんだけど。それくらいリアルな描写って事なのよ。
 前作で自分の彼女をその手で殺さなければならなかった健一がどのような図を書いたか。真実が分かった時、その緻密さに思わず鳥肌が立ったくらいだ。そこまで人を駆り立てる感情とは何だろうと考えさせられる。憎悪と愛情、これはホントに背中合わせなんだな、なんて事も。報われない想いや愛する人を守りたいと思う気持ちが殺人へと駆り立てる。そして保身、金への執着がその身を滅ぼしてゆく。他人を呪わば穴二つってヤツね、ウソも方便なんてキレイ事も言ってられないような世界をフィクションでどっぷり楽しめる作品。成功を手に入れた男が相変わらず深い闇の中にいるというモノローグが、何とも切ない読後感だ。
鎮魂歌(レクイエム)―不夜城〈2〉 鎮魂歌(レクイエム)―不夜城〈2〉
馳 星周 (2000/10)
角川書店
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

悪魔の涙/ジェフリー・ディーヴァー
ジェフリー・ディーヴァーは初めて読む作家である。『ボーン・コレクター』の原作者って事も初めて知った。『ボーン・コレクター』の主人公は四肢麻痺の安楽椅子探偵リンカーン・ライムだが、彼もこの作品にちょっぴり登場する。彼と主人公のパーカー・キンケイドは顔見知りという設定だ。要するにキンケイドはニューヨークでも有名な筆跡鑑定人って事なのね。
 物語は冒頭からいきなり意外な展開で始まる。市長に脅迫状を届けた人物がトラックに轢き逃げされて死亡してしまうのだ。犯人は〈ディガー〉と呼ばれるスナイパーを町に放った。〈ディガー〉は彼の指示がなければ無差別乱射を止めない。その犯人が死んでしまったら、この先一体どうなっちゃうの?てなスリリングな展開でぐいぐい物語に引き込まれてしまうのだ。う~んストーリーテラーだねぇ、J・ディーヴァー。登場人物の書き込みもしっかりしてて、感情移入もバッチリである。
 題名である「悪魔の涙」とは英語のiの上につく点の事。犯人が書いた脅迫状に書かれたiの字は、これが上にピンとはねて水滴のような形になっていたのだ。これをキンケイドは「悪魔の涙」と名付けた。これが重要なキーワードの一つ。キンケイドは文字の形以外にも文章の作り方やつづり方、スペルの間違いや文法的な誤りなどを細かく調べて、犯人像をプロファイルしてゆくのだ。これまでの筆跡鑑定の認識が変わる事間違いなし、めちゃくちゃ知的好奇心が刺激される設定である。
 しかし映画の『ボーン・コレクター』であれだけのどんでん返しを披露してくれたディーヴァーである。このままじゃ終わらないんだろうなぁ~と思ってたら、やっぱり!想像通りのどんでん返し、全く期待を裏切らない作家だなぁ。ところでこのディーヴァー作品に出てくる人物には、歴代アメリカ大統領の名前が多い。市長はケネディ、四肢麻痺のリンカーン、フィールディングにジェファーソン…。これは偶然なのか、それとももっと深い意図があるのだろうか?生憎アメリカの歴史に疎い私には理解できなかったのだが。また映画の話もよく引用されていて面白い。GWに『スター・ウォーズ』を見ておいて良かったな、そうでなければキンケイドにバカにされちゃうところだったわ。J・ディーヴァー、かなり気に入りました。『ボーン・コレクター』はもちろん、ライムものの続編『コフィン・ダンサー』も読む事にしますわ。
悪魔の涙 悪魔の涙
ジェフリー ディーヴァー (2000/09)
文藝春秋
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

千里眼 ミドリの猿/松岡圭祐
水野美紀主演で映画化もされた『千里眼』の続編。感想文でも書いたが、一作目の『催眠』の主人公・嵯峨と前作の主人公・岬がついに出会う事になる。そして映画版『催眠』で原作とかなり違っていた由香の変貌ぶりの理由も明らかになった。映画版『催眠』の感想文で「これじゃあ単なるオカルトだよ」と書いたが、それには深い意味があった訳だね。
 しかしこれで『催眠』ワールドの全てが丸く収まった、と思ったら大違い。このシリーズはまだまだ続くんである。一作目の『催眠』から続きこの本のタイトルにもなっている“ミドリの猿”の謎は明かされないままだし、ラストには驚愕の事実が判明して岬は捕らえられてしまうし。この本は次作『千里眼 運命の暗示』の上巻扱いと言ってもいい内容なのだ。そして物語は更に『千里眼 洗脳試験』へと続くらしい。当初『千里眼』シリーズは全三作とされていたのに、ワールドはまだまだ広がっていくのね。
 今回の敵はメフィスト・コンサルティングという史上最大のマインドコントロール組織である。それに政府の思惑も相まって、知美、岬、嵯峨、嵯峨の前の上司の倉石が陰謀に巻き込まれていく。『催眠』ワールドのどれから読んでも齟齬はないが、できれば映画も原作も全て知った後に読むと、様々な軌道修正がいじましくて面白い。本作の嵯峨は明らかに映画版で嵯峨役を演じた吾郎ちゃんをモチーフにしてるしね。小説『催眠』の嵯峨とは全然違う見かけに変身してるのだ。
 今回のテーマは「人を自分の思い通りに動かすのは可能か」という事である。それは一見難しい事のように見えるが、マジックの世界では当たり前の定義。ドラマ『古畑任三郎』でも同じテーマを扱ったお話があった。相手に「自分に選択権がある」と思いこませる手段、これは結構奥が深い。何かを決断しなければいけない時、「選ぶ道はこれしかない」という状況に陥るのはよくある事だ。でもそれは、何重にも張りめぐらされた蜘蛛の糸の中で相手の意のままに操られているだけかも知れない。そういう道を選ばざるを得ないように仕組まれた罠かも知れない。そんな事を考えてしまう物語。できれば操る側にいたいものだと思うけれど、私みたいに単純で面倒くさがりなヤツには絶対できないんだろうな。陰謀を企む、これは結構根気がいるもんだと最近の仕事でもしみじみ感じたりしている私なのであった。
千里眼 ミドリの猿 千里眼 ミドリの猿
松岡 圭祐 (2001/03)
小学館
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

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