HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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王妃マリー・アントワネット/遠藤周作
私は少女マンガが大好きである。実家に置いてあるものも数えると、500冊は優に越えているのではないかと思うほどのコレクターだ。そんな私の原点になったのが『ベルサイユのばら』。あのマンガがなければ、今日の私はなかったと言ってもいい。一語一句全てのセリフを覚えてしまう位、何度も何度も読み返したものだ。四つ年下の妹も、同じく『ベルばら』の洗礼を受けて育った。そんな妹が貸してくれたのがこの本。こちらもマリー・アントワネットを題材にしたフィクション物だ。これはやっぱり『ベルばら』と切り離しては考えられないんである。
 当たり前だがこのお話にオスカルはいないし、アンドレもいない。その代わりにサド侯爵や詐欺師カリオストロなど、違うところで知ってた人物が登場して物語を盛り上げてくれる。この物語のもう一人の主役は、少女マルグリット。彼女は実在しない人物であるが、彼女の存在がこの物語をよりドラマティックに仕立てているのだ。孤児だった彼女はパン屋のおばさんに引き取られて、こき使われる毎日を送っていた。そこで彼女はフランスに輿入れしてきたアントワネットの姿を垣間見る。同い年のあの女は豪華な馬車に乗って町中の人々の祝福を受けていると言うのに、この違いは一体ナニ?そんな憎悪がサド侯爵の脱獄や首飾り事件、やがてはフランス革命といった、彼女が関わってゆく全ての事件への原動力となってゆくのである。
 『ベルばら』ではフランス革命の序盤でオスカルが死んでしまってから先はかなりあっさりと描かれていたが、このお話はそこから先が長い。お陰でこれまであまり気にしていなかった王党派貴族への虐殺や革命を推進した各党の確執など、かなり生々しい事件を知る事ができた。そう考えると、アントワネットはやっぱり悲劇の王妃である。ベルサイユ宮殿を追われてからギロチンにかけられるまでの10年間、彼女はどんな気持ちで暮らしていたのかと思うと胸が痛い。そして革命という名の下に、暴力で欲望を満たす愚かな民衆たち。人間の本質なんていつの時代も変わらないんだなあと思う。いつの世も、マジョリティの意見を優先するためにスケープゴートは必要だって事なのだ。
 『ベルばら』もこの本もお互いフィクションであるので、細かい設定や事件の背景などが違うのは当たり前だ。しかしフェルゼンとアントワネットの関係については、一体どっちが本当なんだろう…?なんて気になってしまった。『ベルばら』では彼らは王妃が幽閉されていた宮殿で、最初で最後の契りを交わす。それがマンガを読んでいた頃は切なくて嬉しくて、何ともしみじみした気持ちになったものだが、この本では彼らは一生プラトニックな関係を保ち続けるのだ。出逢ってから19年間も一人の女性を愛し続け、プラトニックな関係の彼女が死んだ後も生涯独身を貫いたフェルゼン。まあ人それぞれだからいいんだけどさ、それを純愛と呼ぶか偏執と呼ぶか。それはかなり微妙な所なんじゃないかな~なんて私は思う訳なんである。

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今はもうない/森博嗣
シリーズ八作目、いよいよ萌絵&犀川ワールドも後半である。本の裏表紙に『シリーズナンバーワンに挙げる声も多い』と書いてあったので、かなり期待して読んだ。そして見事に森マジックにハマった。これは前作『今夜はパラシュート博物館へ』同様、日本語を遊んで楽しんだ作品である。ここのところ翻訳本が続いていたので、久々に日本語の気持ち良さを味わったな~って感じ。翻訳本と日本人作家の本って基本的に違う世界のものだと思っているんだけど、それをしみじみと感じさせられる作家は意外と少ないんだよね。
 しかしそういう本だけに、話の内容を語るとネタばれになってしまう。事件の内容はこうだ。三階建ての豪華な洋館で発見された二人の死体。映写室と娯楽室という隣り合った部屋は、内側からしか鍵がかけられない仕組みになっていた。死体はそれぞれの部屋に一体づつ。完全な密室、しかも彼女たちの首には絞められた痕があったのだった…。という奇怪な事件に挑んだ西之園嬢。電話も通じない嵐の山荘に閉じこめられた9人。この中に犯人はいるのだろうか?
 事件解決までの道のりに交えて、西之園嬢と笹木のラブロマンスも描かれている。この辺りが「森作品は恋愛小説だ」と言われる由縁なのかもね。そしてラストで明かされる意外な事実。まぁ気をつけて読んでいれば、最後のどんでん返しも何となく察知できるかもしれない。私も何か違うぞ、何か怪しいぞという感覚はピリピリきてたんだけど、やっぱりネタ明かしされた時は素直にヤラレタ!って思った。そこが森作品の面白いところなんだよね。
 今はもうない、というタイトルが胸にしみる作品。実は私はこのフレーズが結構好きで、これまでもエッセイなどでたまに使っていたのだ。今はもうない、虚無感と懐かしさを漂わせるような不思議な響きを持つ言葉だ。今はもうないけれど、あの時は確かに身体で感じていた感覚や気持ち。今はもうないと思い返せる程、ずっと心に残っていた思い出。失ってしまったものを思い返す時に使う言葉、それはやっぱりどこか切ないものがあるでしょ。不変のものなんてこの世にはない。だからこそその時その時を大事にしたいと私は思うな。

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