HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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緋色の迷宮/トマス・H・クック
息子がベビーシッターをしていた家の少女が失踪した。犯人に疑われた息子を信じたいが、息子には今まで自分が知らなかった一面があった。果たして犯人は本当に息子ではないのか?という主人公の葛藤を描いた物語。前作『蜘蛛の巣のなかへ』から続く、家族モノだ。しかし今作はかなり切ない、というか悲しい気持ちになる物語である。遣り場のない悲しみに胸が締めつけられるような読後感だ。
主人公エリックには大学で講師をしている妻と15歳の息子キースがいた。ある夜、近所に住むエイミーのベビーシッターに行った息子は、深夜遅くに帰宅した。そして翌日、エイミーの失踪を知る。犯人として疑われるキース。しかしエリックは、キースが供述の中で嘘をついている事に気づいてしまう。そんな中、妻の不倫疑惑も浮上。様々な事実が明らかになるにつれ、エリックにとって衝撃の事件が起こってしまう…という物語。前作よりは分かりやすいし、主人公の苦悩には感情移入しまくりの設定だ。子を持つ親にとっても、親との関係が複雑になる思春期の子にとっても身につまされる物語である。
エリックは小さな町の写真屋さん、という設定がより「家族」への思いを募らせる仕掛けになっている。笑顔で撮影された家族写真、しかしその裏にはどんな苦悩があるのだろう?と他人の写真を焼きながらエリックは考えてしまう。そしてクック作品につきものの“主人公のトラウマ”という設定も健在。これまでのクック作品のファンにもお薦めだ。
親に信用されていないと感じる悲しみ。子をどこまで信じていいのかと迷う親の気持ち。その気持ちがすれ違う度に状況は悪化してゆく。それが読んでいてもどかしくて切なくて。誰でも一度は感じた事のある親子の葛藤を、少女の失踪事件に絡めて鮮やかに描いている。そしてクック作品お決まりのどんでん返しと、衝撃的なラスト。子の親だったら涙なくしては読めないかも、という結末だ。時間が経つにつれて記憶は風化してゆくけれど、親にとって子供に関する記憶は消える事はないのだなと深く感じた物語。主人公のこの先の人生が幸福である事を願わずにはおれない。そんな気持ちになるが、全てが悲しいだけの設定ではないのが救いだ。ミステリ作品として見ても、プロットが緻密でキャラクター設定が巧い。クックファンなら必読、それ以外のミステリファンも読んで損はない一冊だろう。
緋色の迷宮 緋色の迷宮
トマス・H. クック (2006/09)
文藝春秋
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テーマ:恋愛詩 - ジャンル:小説・文学

蜘蛛の巣のなかへ/トマス・H・クック
わりと“救いようのない不幸”を題材にする事が多いクックだが、前作『闇に問いかける男』は希望が持てる終わり方で面白かった。今回のエンディングはどんな感じなんだろう?そしてそこに辿り着くまでにどんなギミックが隠されているんだろ?今回も胸がきゅんとするような切なさに溢れた作品なのかしら?とワクワクしながら読んだのだが…。うーん、私が読んだ彼の作品の中ではワースト1かな、ハッキリ言って全然面白くなかったです。
  テーマは「父と子の愛」なんだけど、主人公のロイが人間的に幼すぎて全く同感できないのだ。30歳過ぎても父を憎んでいたり昔の恋人との別れを引きずってプチ人間不信に陥っていたり。くだらない事で末期ガンの父と真剣に口喧嘩すんなよ…もうイイ年したオトナなんだから!と突っ込みたくなるシーンが満載。事件の裏に潜んでいる事実を何も知らずに勝手に町を出て友人も恋人も作らずに教師生活を送って、20年ぶりに故郷に戻ってきたと思ったら都会人ぶった振る舞いで父をイライラさせて…。ハァーと溜め息をつきたくなるほどコドモだ。なので最後に父と和解する結末にも、感動はあまりなかった。そんな幼い頃の感情のもつれなんか、とっくに自分で消化しておくもんだろう普通?って感じだよ。
  田舎町の保安官っていうのがどういう立場の人なのか良く分からないんだけど、物語に登場する保安官にはワルモノが多い。で、本作には登場する保安官とその手下は、揃ってワルモノである。しかし何で彼らが野放しになっているのか…。田舎町とはそういうもんなのか??生まれた町から一歩も出ないで人生を終えるという生活や、家族代々同じ場所に住んでいて住民は皆知り合い、みたいな所に住んだ事がないので、この閉鎖的な町が抱える問題っていうのもイマイチ理解できなかった。親子揃って保安官という一家が登場するのを見て「特定郵便局みたい…」と思ったのだが、あながち間違いじゃないのかもね。
 タイトルの「蜘蛛の巣」とは、家族との絆、土地のしがらみなど、ロイの故郷そのものの事である。蜘蛛の糸に絡まってしまったロイは、蜘蛛の巣の中心にいる人物を引きずり出そうとする。しかし巣の中心にいる蜘蛛は老獪なのだ。そう簡単には尻尾を出さない。結局彼は自分の手を汚す事なく面倒な人間を片づけてしまう。彼に操られていた弟の仇を取らなければ…!とロイが決意するまではまだいいが、その解決方法が単純過ぎ。もっと頭使って策略で彼を貶めてくれるのかと思ったら、最後は暴力かよ。一生懸命最後まで読んだのに、この結末には心底ガッカリした。本の帯に「9.11のワールドトレードセンター崩壊以後、クック作品は変わった」と書いてあったが、変わらなくていいですよ先生…。確かに9.11の事件は作風をも変えてしまう程の衝撃だったろうとは思うけれど、『夜の記憶』を読んだ時の感動はどこへやらって感じ。唯一、あんなに情けなくてダメダメだったロイがちょっぴり成長したのだけが救いだったかな。それも前述の通り元が悪すぎるだけなので、感動すべきポイントじゃないとは思うんだけどね…。クックファンも読む必要はないでしょう。感動を期待すると、エラい目に遭いますよ。
蜘蛛の巣のなかへ 蜘蛛の巣のなかへ
トマス・H・クック (2005/09/02)
文藝春秋
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

闇に問いかける男/トマス・H・クック
WOWOWでドラマ化された『心の砕ける音』以来のトマス・H・クック。登場人物それぞれが負う傷と、そこに待ち受ける残酷な結末。そして明らかになる意外な真実。相変わらずのクック節は健在で、読後は何とも言えない切ない気持ちになる。でもそれが“救われない悲しさ”とはちょっと違った、どこか爽やかな印象を残すという不思議な物語である。今回はタイムリミットという設定だったので、登場人物に因縁を絡ませるのは難しいのではないかと思ったが、やってくれましたね~。さすがはクック。外国版:浅田次郎と呼ばせてもらおうかな。
 容疑者として捕まったスモールスは、読んでる側からすればいかにも犯人じゃない感じ。でも刑事達は彼を犯人だと信じ込んでいる。しかし警察署の中には怪しい人物が跋扈していて、真実が歪められるのではないかと読んでて不安を煽られる。しかし真実はそんな所にはなかったのだ。物語とはあまり関係がないのではないかと思われた人物のエピソードが、最後は見事に結末にハマってゆく快感。 これまでの「記憶シリーズ」とはちょっと違った手法だが、最後までハラハラしながら読める傑作だ。
 物語は刻々と過ぎてゆく時間を時計のイラストで表しながら進んでゆく。最初に与えられた時間は11時間だったが、それだけあれば1本の物語が書ける程、人は動けるものなのだなぁと感心したよ。そのスピード感や真実が明らかになってゆく過程の構成は、いかにも映画的。一番最初にピアースとコーエンが若かりし頃の取調室での模様が描かれていて、その後に本編の物語が始まる、という見せ方も映画にしたらキレイだな~って造りだし。映画にしたら『ボーン・コレクター』みたいな、どんでん返し系ミステリとして結構イケるんじゃないかな?
 今回は身近な人間が死んでしまうという悲惨な結末になるが、最後にキラリと光る未来が暗示されているところが良い。そしてその先を敢えて書かない終わり方だからこそ、 どことなく爽涼感を覚えるのだろう。何となく登場人物が多すぎてバタバタな感はあるが、面白かった。自分が過去に出来なかった事を、今になってどのように示したら良いのか?人から信じてもらえないという状況は、どれ程に辛いものか?子供を殺害された親は、人を憎むという感情とどのように向き合ってゆけば良いのか?人間が生きているうちに感じる様々な負の感情を、昇華しようともがく様が切ない。まぁどんでん返しの度合いとか切ない感情とか、過去の作品に比べると中途半端な気はしないでもないが、『アウトリミット』みたいなおバカな作品を読んだ後だと何となく高尚な気持ちになれるね。クック作品の代表として人に薦めるかどうかは微妙な出来だけど。
闇に問いかける男 闇に問いかける男
村松 潔、トマス・H.クック 他 (2003/07)
文芸春秋
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

心の砕ける音/トマス・H・クック
「このミステリーがすごい」と「週刊文春ミステリーベスト10」の常連であるトマス・H・クックの新作。この作品はクックの代表作である記憶シリーズの次に発表された作品で、2001年度の「このミス」では5位にランクイン。記憶シリーズに比べると胸が痛くなるような切ない物語ではなくなっているが、よりミステリっぽい設定になっている。ファンとしては記憶シリーズの方がショッキングで良かったが、こちらも謎が謎を呼ぶ展開でなかなか良い。キャラ設定や舞台設定に惑わされない、クックは本当にストーリーテラーだなぁと感心させられる。
 とは言え、物語の設定は大変わかりやすい。どこか影のある美女に惹かれていく弟、それをどこか心配しながら見守る兄は彼女の過去を知る事になり…あとは、言わずもがなって感じ。問題は、彼女は一体何者なのかって事と、弟を殺したのは本当に彼女だったのかって事である。彼女の正体は物語が進むに連れ想像がつくのだが、それがちょっと意外な結果だったのだ。大半の読者は騙されたんじゃないかと思う。弟の死に関しては、結末を知ると案外あっさりって感じ。しかしやり場のない辛さ切なさっていうテーマは、相変わらずクックの十八番のようである。
 そしてラストもねぇ…。あれじゃあオトナすぎてちょっと納得できない。つい最近読んだ短編に双子の兄弟を好きになってしまう女性の話があったが、兄弟だろうと双子だろうと、所詮は違う人間なのである。どっちも好きなんてあり得ないし、どのような結論を出したって誰かは傷つくのだ。だったら傷つく人間が少ない方がいいのではないかと私は思ってしまうのだが。人を好きになる気持ちなんて、そんな簡単に制御できるものではない。どっちも選べなかったんだったら、どっちもそんなに好きじゃなかったんじゃないの?この恋愛物語に夢中になれなかったのは、ドーラのキャラクター設定のせいかもしれないな。好きになってはいけない人を好きになってしまってどうしよう~みたいなジレンマとは無縁な女性だったし、ドーラって。
 男性の視点から見た恋愛模様がメインなので、男性が読んだら共感できるところもあるのかもしれない。私は女性キャラに魅力がなかったのでイマイチ入り込めなかったけど。どちらかと言うと兄のキャルが地方検察官なんて固い仕事に就きながら恋人もつくらず、唯一の楽しみは毎週の売春宿通いっていう設定の方が面白かったよ。エリートサラリーマンって、どっか歪んだところがある場合が多いからねぇ。イイ年したオトナが“初めての恋”におろおろして自分を見失っていく物語。一言言わせてもらうなら、「若いうちに飽きるほど恋愛しとけ!」って感じかな。
心の砕ける音 心の砕ける音
トマス・H. クック (2001/09)
文藝春秋
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