HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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点と線/松本清張
松本清張のあとがきで必ずと言っていいほど紹介されている名作。私は数字に弱い女なので時刻表を駆使した、と言われた瞬間に興味ないと思ってしまうタイプなのだが、松本清張は別格だ。しかし本屋で手にとってビックリ、案外薄い本だったのね…。この文量でそんなに複雑なトリックが説明しきれるものなのだろうか?と思って読んでみたのだが…。不安は的中、ハッキリ言ってこれは、時刻表ミステリなんて言う程のモンじゃあありませんでした。そんな事言ったら西村京太郎センセが泣くよ(彼の作品は読んだ事ないんだけどね)。
  九州の博多で発見された男女の死体。その6日前、東京駅で二人が特急電車に乗り込むところが目撃されていた。目撃したのは女の勤め先の料亭にいる女たちと店の常連の安田。しかし警察は男が所持していた特急の食堂車のレシートに「おひとりさま」と記載されていたのを見て、疑問を抱く。男は本当に女と一緒に博多に来たのか?東京駅で彼らを見たという安田に疑惑の目を向ける警察だったが、彼には殺害時刻に博多にはいなかったというアリバイがあったのだった…という物語。そこに何故時刻表が関わってくるのか、そしてそれが何故私にとっては納得できないものだったのかについては以下の通りだが、ネタバレなので要注意ね。
  まず最初のトリックは「東京駅で二人を目撃させる事」だった。二人は上野駅の2つ先のホームから目撃されるのだが、間にあるホームに電車が停車していたら彼らを見つける事は不可能なのだ。1日の間でそのトリックが達成できるのはわずかに4分間、その危うさはあとがきの解説でも指摘されているが、確かにちょっとビミョーなトリックなのである。そして次は安田のアリバイ破り。安田は死体が発見された日の夜には札幌にいた事が証明されており、そのためには殺害時刻には電車に乗っていなければならないため、アリバイは立証されると考えられていた。でも私は最初から思ってたんだよ…。なんで刑事さんは電車の事しか考えないの??飛行機使ったら全然間に合うと思うんですけど?案の定、刑事さんは飛行機の可能性を考え出したけれど、それはもう物語の3/4が過ぎたあたりの事…。まぁ清張ミステリでは捜査が寄り道して長くなるのはいつもの事なんだけども。今回のトリックはちょっとなぁ…。飛行機使ったら時刻表も何も関係ないじゃん!まぁそれが私がこの作品を時刻表ミステリだとは思いたくない理由。まるで双子が犯人だった、みたいな肩すかし感だよなぁ…。
 それでも清張の素晴らしいところは、その表現力である。東京の刑事と博多の刑事がやりとりした手紙の文面をそのまま使ってトリックを説明しているのが、とても面白くて良かった。 そして彼が本当に言いたかったのはトリックの斬新さとかじゃなくって、日本の政界に巣くう汚職問題なのである。汚職に絡んだ人間がどのような末路を迎えるのか。それはその人たちの立場によって全く違うものになる。その憤りや虚しさが最後の章であっさりと紹介されているのが、余計に悲しくなる。そういう表現がとても上手だ。これは時刻表ミステリなんかじゃなくって、社会派ミステリなのだ。詰めは甘かったけど、手は良かったかなって感じ。誤解のないように言っておくけど、もちろん上記のような不満がありつつも本作が名作である事には間違いないのでご心配なく。読んで損した!という気持ちにはならないと思うよ、満足するかどうかは分からないけれど…。
点と線 点と線
松本 清張 (1971/05)
新潮社
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

黒革の手帳/松本清張
2004年10月からテレビ朝日系でドラマ化されると聞き、改めて原作を読み直してみる事にした。この作品が最初に発表されたのは1980年。横領額や社会における女性の立場が今とは随分違う設定ではあるが、巧妙でスピーディな展開が気持ちいい名作である。
  器量は十人並みの元子が頭脳と度胸だけで男達を手玉に取ってゆく物語。また社会的な地位のある男たちがちょっとした下心で身を持ち崩してゆく様も小気味いい。出世するのは男性行員だけ、女性行員は「若ければ若いほどいい使い捨て」という銀行への仕返しとして奪った横領金。彼女は架空口座の詳細を綴った黒革の手帖を楯に、横領金の全額を“無償で”受け取る事に成功する。銀座のママとなった元子は、雇っていた波子というホステスに入れ込んでいた楢林という開業医から五千万円を脅し取る。その時の楯となったのは彼の脱税行為を立証する隠し口座の詳細を綴った文書。しかしこの行為が、後に元子を追いつめてゆく事になるのだった、という物語。今や架空名義の銀行口座なんて簡単には作れないが、当時の銀行の立場や医師に対する税の優遇措置などをさりげなく糾弾する手口が面白い。しかし医師の優遇措置って今でもあるのだろうか?これにはかなりムカついたわぁ。
 第三の黒革の手帖を手に入れる段取りがあまりにもスムーズなのでちょっと違和感があったが、それも物語のフックだった事が後に分かる。この物語から学ぶのは「身の丈にあった生き方をしよう!」という事である。彼女がつまづく原因となったのは、とある巨大クラブを手に入れようと言う野望を抱いた事。これさえもっと慎重に、今できる事できない事を冷静に判断していればあんな目に遭う事もなかったのに…。しかし経営にはある程度の冒険が必要な時もある。同じ経営者として、いろいろ考えさせられたなぁ。
 元子は30代半ばという設定。そんなママに言い寄る男たちが他の人から「彼は30~40の中年増が好みなんだよ」と言われているのにちょっと傷ついたりして。…30代半ばで中年増ですか…。 今は30代なんてまだまだ現役じゃん?とか思うけど、それは自分が既にニア・フォーティな年だからかしら…。ドラマでは元子を米倉涼子が演じるらしいが、彼女じゃちょっと美人過ぎかなぁ。でも彼女のライバルとなる波子が釈由美子っていうのはナイスキャスティングかも。十人前の器量で恋愛経験の少ない元子と、美貌と度胸で成り上がってゆこうとする波子。男が下心で身を持ち崩すのと同じように、女の性(サガ)が女性達の運命を変えてゆく。今は文庫版でしか入手できないが、スピーディでスリリングな展開にワクワクしながら上下巻を2日くらいで読めてしまうのではないだろうか。しかし私が読んだ第二版のハードカバーには今は規制されているはずの言葉が結構使われているのよね…。現在の文庫版では修正されているのか?禁止用語にはうるさい私は、ちょっと気になるのであった。
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ゼロの焦点/松本清張
本書の初版は昭和48年発行である。私は高校生の頃に一度読んでいるのだが、内容は全く覚えていなかった…。覚えてたのは東北弁と似た出雲方言というのがある事と、「カメダ」というキーワードと、親子が背負っている過去くらい。現在放映されているドラマ版を毎週楽しみに見ている私としては、どうしても原作が読みたくなってしまったのだ。犯人が誰か、は既に分かっている状態なのだが、それでも楽しめる名作なのだろうかこれって?
 しかしこの作品を評価するには、発表されたのが今から30年以上前だという事を念頭において考える必要があるだろう。何しろ世界の何もかもが現在とは違いすぎる。だって犯人の産まれた年が昭和8年なんだよ?両親よりも年上だっちゅーの。清張は社会派小説の先駆者的存在である。当時の社会情勢に照らし合わせて事件を理解しないと、犯人の背負っている業や刑事の苦労に共感できないもんね。
 と、それは良かったのだが。無駄なストーリーが多すぎる!今西刑事が見当違いな捜査をしている、という設定はミステリの定石としてOKなのだが、見当違いの捜査を説明するページ数が多すぎじゃないかい?その割に、今西はいきなり事件の核心に触れる“何か”を思いつき、事件は一気に解決に向かっていくのだ。その“何か”を何故今西が思いついたのか。その前に、まず彼は“何を”思いついたのか。その説明が一切なく、いきなり彼は犯人の親を調べ出すのである。その唐突さには読んでるこっちがビックリしたよ。それまでは今西が足を使って捜査しても捜査しても空振りに終わるじれったさに引き込まれていたんだけども。何か肩すかしでガックリって感じだったなぁ~。ラストはセンスがあってかなり好みだったんだけど。
 これを原作として現在ドラマが放送されているが、このままでは絶対に不可能なトリックがたくさんある。それを現代版にどうアレンジするのか、実に楽しみだなぁ。親子が背負っている業を何にするのか?犯人はどうやって他人の戸籍を手に入れたのか?もし第二、第三の殺人が起こるとしたらその手段は何か?その辺がドラマ版のお楽しみではないだろうか。それをはしょったらドラマ版の魅力はゼロでしょうね。ドラマ版との違いを楽しみながら読むのは面白いかもしれないけど、現代ミステリを読み慣れた人が楽しむにはちょっと無理がある作品かも。ま、これも発表当時は最先端のミステリだった、という事を理解しながら読むなら傑作かもしれないけど。
ゼロの焦点 ゼロの焦点
松本 清張 (1959/12)
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西郷札/松本清張
タイトルに惹かれて、実家の書庫から借りてきた作品。松本清張は好きなのだが、学生の頃読んだっきりだから20年振りくらいだ。しかし『壬生義士伝』 以来、幕末に興味を持った私としては、「西郷」なんてキーワードを見逃す訳にはいかないのだ!
 『西郷札』は西南戦争の際に薩軍が発行した軍票の買い上げで一攫千金を目論んだ男が、謀られて破滅していく物語。昭和の現代に新聞社が開催するイベントの資料として「西郷札」が出品され、それを調べてゆくうちに「西郷札」にまつわる上記の物語が明らかになってゆくというミステリ仕立てになっている。いかにも元新聞記者だった松本清張らしいプロットの物語である。
 それ以外の時代小説は、徳川時代の初期のものと幕末から明治維新にかけての時代のもの。維新後に一人の旧幕臣が辿った人生を描く『くるま宿』、江藤新平の末路を描いた『梟示抄」(ぎょうじしょう)』、同年同月同日に生まれた三人の子が維新後にどのような人生を歩んだかを描く『秋々吟』、昔の隠し子を巡る事件を描いた『権妻』、添い遂げる事のできなかった初恋の女性を思い続ける『恋情』が幕末から明治の作品である。明治維新が、当時の幕臣にとって如何に大きな波であったかが窺える物語ばかりだ。
 家康に引き立てられていた本多正純の人生を描く『戦国権謀』、領地替えによって起こった悲劇を描く『酒井の刀傷』、家光に仕えた大老の子孫が辿る人生を描いた『二代の殉死』、恐ろしい容貌を持って生まれた家康の子の人生を描いた『面貌』、あらぬ噂によって人生が狂わされた男の物語『噂始末』、一晩の遊びの残り香が事件を引き起こす『白梅の香』は徳川時代の物語。当時の藩主の目に見えない苦労が分かった気になった。
 全てが史実ではないだろうが、フィクションとのバランスが素晴らしい。泰平の世へ動いてゆく徳川時代の初期と、民主主義の確立へ動いてゆく明治時代という二つの時代。それぞれの社会情勢を人生に絡めた物語の見事な構成力、描写力。現代小説だけではない、松本清張の魅力が堪能できる一冊だ。しかし家康の死因が“鯛の油揚げによる中毒”って…。油で揚げてあるのに中毒?第一、油揚げって唐揚げや天麩羅とは違うのか?鯛の油揚げなる食物が如何なるものなのか、是非一度食してみたいものである。
西郷札 西郷札
松本 清張 (1965/11)
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

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