HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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悪魔の降誕祭/横溝正史
読み尽くしたと思っていた横溝正史も、今になって新刊が発売されるのでビックリしてしまう。いづれも文庫になるのは初めてのようだが、今回は金田一探偵の様々なプライベートが明かされる貴重な短編集と言えるかもしれない。
『悪魔の降誕祭』は、世田谷区緑が丘にある金田一の事務所で起きた殺人から連続殺人に発展してゆく事件を暴く物語。複雑な家族構成、美しい妻と才気ある美青年、身体的障害を負った不遇の娘、洋館でのクリスマスパーティ、そんな設定の中で起こる殺人事件の犯人は意外にも…というお話。時間と言葉のトリックがキーワードとなる正統派な探偵小説だ。相変わらず青酸カリが普通に使われている所に違和感を感じるが、何故犯人がそんな薬物を手に入れられたのか、という説明も一応されているので無理矢理納得。戦後っつーのはドタバタしていたんだなぁ…と思えば良しとしましょう。そんな事よりも、その犯人の悪魔性というものに強く惹かれた。人間の心の奥底に潜む悪魔を目にしてしまった時の恐怖、それが印象に残る物語。なかなかの秀作なのではないでしょうか。
 『女怪』は、金田一が心を寄せる銀座のマダムに関わる物語。あの野暮天を絵にしたような金田一に「好きで好きでたまらない」と言わしめたマダムの非業な人生を描く。しかしこれはたくさんの“無理”がてんこ盛りの作品だ。検死官をなめちゃイカンよ!…まぁ昔は検死もそんなモンだったのかもね…と思えば良しとするか?うーん、それでもその後の展開にはちょっと疑問が残るが…。金田一のプライベートが吐露されて、今まで見たこともなかったような彼の一面を垣間見れる貴重な一作、とだけ言っておきましょうか。
 『霧の山荘』は、トリックは簡単だけどよく作り込まれた作品という印象だった。避暑に訪れた別荘地で金田一は映画スターの姪から奇妙な話を聞かされる。その真意を確かめるためにスターの別荘に向かった金田一はそこで彼女の死体を発見するのだが、数十分後に現場に行くと死体はキレイに消えていた…という事件。その後、彼女の死体が別の場所で発見されて事件は違う局面に発展してゆくのだが、小さな証拠品と犯人が知り得なかった事実から事件の全貌を解決した金田一。これも探偵小説の楽しさが存分に味わえる作品だ。これと似たようなトリックを使った作品は現代ミステリでもよく目にする。それをもっと大規模にしたのが綾辻行人の『黒猫館の殺人』ではないだろうか。この作品はトリックに荒さが目立つ綾辻作品の中でもなかなかに優秀な作品。併せて読むと面白いかもしれないな。
 私は一人の探偵が次々と事件を解決してゆくシリーズものはホームズ以外あまり好きではなかったのだが、それを覆したのが金田一耕助である。彼の朴訥とした人柄からは想像もつかない頭脳の明晰さと、たまに失敗してしまう人間らしさ、敢えて犯人に逃げ場を与える優しさを併せ持つ人間性に、愛さずにはいられないような愛嬌を感じるのだ。『悪魔の降誕祭』は、そんな金田一の性格が存分に活かされた物語。彼を愛する読者なら、読んで損はないでしょう。
悪魔の降誕祭 悪魔の降誕祭
横溝 正史 (2005/08/25)
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

双生児は囁く/横溝正史
これまで文庫本に収録されていなかった短編集。収録されなかった理由は様々なんだろうけど、なかなか面白かった。まぁ確かにちょっと「あれ?」と思う作品もない訳じゃあないんだけどもね…。
 『汁粉屋の娘』は、汁粉屋に勤める姉妹の悲しい結末を描いた物語。姉妹ならではの嫉妬が招く悲劇…と言えば格好はいいが、その死に様が何ともあっけない。野球の流れ球が頭に当たって死ぬなんて…本当にあるのかなぁ??『三年(みとせ)の命』は博士の家の前に捨てられていた美青年の不遇な一生を、復讐というキーワードを交えて描く。正体不明の美青年が巻き起こす騒動が進むに連れ、彼の正体が暴かれてゆく。うーん、美しいモノに対する独占欲という気持ちは分からなくもないけど、やっぱそれは上流階級ならではの遊び、みたいなもんなのかも。『空き家の怪死体』は空き家で見つかった死体の身元を調べてゆく物語。目撃者の証言と死体の風体が違っていたりして最初は面白かったけど、正体が分かってからはあれよあれよと事件は解決。しかも犯人からの手紙で事件の詳細が明かされるというお馴染みの手法で最後はバタバタな展開だったかな。
 『怪犯人』は温泉地で起きた地震をきっかけに、男爵家の赤ん坊取り替え事件が発覚する物語。最後にちょっとしたどんでん返しが用意されていて、スッキリ読めるお話だ。『蟹』は、どちらかというと江戸川乱歩チックな異形モノ。シャム双生児とか…見せ物小屋とか…小男とか…時代を感じる設定である。でも本作の中では一番“横溝らしくて”面白かったかな。『心』は記憶を失った男の身元を探すと、そこには意外な事件が隠れていた…という物語。言わんとしている事は分かるんだけど、その終わり方はどうなの??というストレスが溜まる話。物語を完全には理解できてないのかもしれないな。『双生児は囁く』は双子のタップダンサーである夏彦と冬彦が連続殺人事件の真相を暴く物語。割と分かりやすい探偵小説だが、凶器についてはイマイチ納得できないなぁ…。もうちょっと説明が欲しい感じだ。ちなみにこの双子の探偵は『双生児は踊る』という作品にも登場していて、この作品は角川文庫の『ペルシャ猫を抱く女』に収録されているが絶版になっているようである。
 なんですぐ銃が使われるのか、とか普通の人がクロロフォルムを常備してると思うなよ、とかいう不条理を忘れる努力は必要だが、それも横溝作品の醍醐味の一つ。文体から滲み出る“時代”という匂いが愛おしい作品たちだ。特に『双生児は囁く』に出てくる真珠の展示場は、現代ではあり得ない虚飾の世界でとても美しい。江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』にも通じる、幻想の世界。このシーンは想像するだけでとても楽しかった。他の作品はまぁね…という出来ではあるが、『双生児は囁く』はお薦めだ。ヒロインの美しさがこれまでの横溝作品とは違って現代的な所も良かった。小麦色の肌に彫られたハートのクイーンの入れ墨なんて、ものすごくセクシーでしょ?そう言えば『蟹』にも入れ墨がモチーフに使われていたっけ。横溝先生も入れ墨にエロティックな魅力を感じていたのかもね。
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横溝 正史 (2005/05/25)
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●悪魔の寵児 ●鬼火/横溝正史
横溝三昧も、今回が最終回。ホントはまだ沢山持ってるハズなんだけど、引越を繰り返しているうちに見つからなかった本もあるのよね。本が見つかったらまた読み始めよう。金田一シリーズの最後は『悪魔の寵児』。戦後の闇取引で財をなした実業家の周りに次々と起こる殺人事件、しかも被害者は全て実業家の愛人だった。しかも物語の序盤で男と心中した女は実業家の妻、しかし数日後には妻の死体が忽然と消えてしまう。妻の昔の夫、実業家の昔の妻、新しい愛人の夫、昔の妻が経営する悪趣味な蝋人形館、怪しげな風体の人形師…。横溝ワールドを構成するファクターは完璧だ。あまり評価されていない作品のような気がするが、私は結構面白かったぞ。『幽霊男』に似たギミックだったりもするけれど。
 『鬼火』は金田一とは全く関係のない短編集。表題の『鬼火』は湖畔に建つ荒廃したアトリエで起こった、従兄弟同士の壮絶な物語。『蔵の中』は、あとがきなどにも引用される事も多い作品。物語の中に物語が入りこむ、現実と創作の境目が曖昧になってゆく狂気の物語だ。『かいやぐら物語』は少し精神を病んだ青年が、月光の下で謎の美女から聞く物語をファンタジックに描いた作品。月と狂気を絡ませた、夢幻的な美しい作品である。
 『貝殻館綺譚』は偶然殺人の現場を目撃してしまった女性が徐々に狂気に捕らわれてゆく話。死者の復活、私の大嫌いな土曜ワイド劇場なみの設定などのデタラメさがちょっとイヤな感じだったかな。『蝋人』は芸妓と美少年騎手の恋愛と、芸妓のパトロンが繰り広げる愛憎劇。様々な障害を乗り越えて愛を成就しようとする、若い二人の行く末が痛々しい物語だ。『面影双紙』もあとがきに引用される事が多い作品。土蔵の一室で友人が語った、家族にまつわる恐ろしい物語。物語の舞台とラストで使われる小物と題名が見事にマッチした傑作である。関西弁と標準語のちゃんぽんで語られる口調が心地よい。
 横溝作品の魅力の一つに、“セリフ回しの美しさ”があると思う。昔のやんわりとした言葉がどことなくエロティックで不気味で、物語を引き立てるのだ。事件解決にあまり関係のないシーンでも、登場人物たちは生き生きとしゃべる。それが嫌味ではなくしつこくなく、丁度良いバランスで読者を引き込んでゆくのだ。後年の作品『白と黒』は団地が舞台となるなど、時代と共に設定が変わっていった横溝作品だが、やはり斜陽族という言葉が使われていたような時代の物語が彼の真骨頂ではないかと思う。誰にもマネできない独自の世界。人間の奥に潜む残忍さや逃れられない宿命に突き動かされる本能、そして愛すべきキャラクターである金田一耕助。それらを創造した横溝正史は、やはり天才である。本人はトリックにかなり悩んだらしいが、小説家たるもの、物語の構成と文体が一番問題な訳で。「これが、生きている彼女を見た最後になった」なんて文章で読者を引き込んでゆく、一種のネタばらしも全く嫌味じゃない。今となっては使い古された表現かもしれないが、彼の物語の中ではそれが素晴らしく効果的なのだ。そんな手段を小賢くなく使えるあたりも、彼の才能であり魅力なのだろう。すっかり横溝作品にハマった数ヶ月。一生の思い出になる期間だったかもしれない。残りの本も、必ず全て読みますよ!
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●幽霊座 ●幽霊男/横溝正史
『幽霊座』は金田一シリーズの短編集。表題作の他『鴉』『トランプ台上の首』が収録されている。『幽霊座』は歌舞伎のお話。さりげなくエラリィ・クイーンを引用しているが、要するに大がかりなトリックものってヤツだ。複雑な人間関係は相変わらず、短い中にいろいろ詰め込んであるので読み応え充分の短編である。『鴉』は密室もの。密室から姿を消した夫、三年後再び繰り返される悲劇…とネタは面白そうなのだが、トリックや動機などに多少不満が残る。あの短さで横溝ワールドを語るのは、無理があるんじゃないかなぁといった感じだ。
 『トランプ台上の首』は題名通り、首を切り取られた死体を巡る物語。発見されたのが“首のない死体”ではなく“胴体のない死体”という所がミソだ。首だけが発見される、というシーンもショッキングで良い。しかしなぁ…トリックは今ひとつといった感じ。これじゃあ土曜ワイド劇場だよ…。「何故胴体を隠したかったのか?」と一生懸命考えちゃった私がバカみたいじゃん!種明かしまでのストーリーが面白かっただけに肩すかし食らった感じ~。まぁ中にはこういう作品もあるという事で。
 『幽霊男』は、死体を芸術的に演出する男の物語。ヌードクラブに所属するモデルたちが次々と猟奇的に殺されていく。ひとクセもふたクセもあるヌードクラブの会員たち、そして“幽霊男”と名乗る怪しい客。ノーマルではない男達が巻き起こす悪趣味な殺人事件である。そのアブノーマルさが当時は新鮮だったのかもしれないが、トリックや真犯人の正体などは結構強引。特に最初の被害者の弟である浩吉クン、君の行動はかなり突飛で強引だぞ。殺人現場を芸術的に演出するという目的以外には、あまり美しさを感じない物語。吸血癖のあるエキセントリックな画家、美しい謎のマダムなど、横溝ストーリーを構築する登場人物は揃ってるんだけどね。惜しいお話である。
 横溝三昧も終盤に入るとそれなりに駄作もあるものだなぁと思うが、まぁ人気作家ならそれも仕方ないかと思うし。赤川次郎だって、全てが傑作って訳じゃないでしょう、きっと。私は読んだ事ないので分からないけれど。しかし横溝正史は「男装した女性」が好きだなぁ~。当時は新しいギミックだったのかもしれないけど、デタラメさ加減という意味では結構スレスレの線だと思うぞ。しかしそれも戦後のドタバタを表す一つのキーワードなのかもしれない。今ほど全てが自由じゃなかった世界、そんな日本を実際に生きた作者の言葉は、歴史物とは違うリアリティに溢れているのだ。
幽霊座 幽霊座
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