HOT SHOT! book
月1ペースで読んでいる小説の読書感想文です。
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第三の時効/横山秀夫
F県警強行犯チームの活躍を描いた全6篇の短編集。シリーズは現在でも連載されているらしい。元・新聞記者だった作者が描く警察小説は設定がリアルだ。そしてキャラクターの描写が実に生き生きとしている。それぞれのチームが抱える問題や葛藤、様々な人間模様が事件を通じてリアルに描かれているので、感情移入度も高い。物語も緻密に構成されているので、どんでん返しミステリが好きな人にはお薦めだ。
 「沈黙のアリバイ」は現金集配車襲撃事件にまつわる、犯人と刑事との法廷バトル。犯人が主張するアリバイは本当にあったのか?取調室での心理戦の描写は、背筋が寒くなる程のリアルさだ。「第三の時効」は夫殺しの犯人に迫る時効にまつわる物語。“時効封じ”の離れ業で事件は大きく動き出す。しかしそこには警察に話す事の出来なかった、意外な事実が隠されていた。割と想像しやすい結末なのだが、そこに持って行くまでのギミックが秀逸だ。「囚人のジレンマ」は違う強行班チームが追っていた二つの事件が、意外な所で繋がってゆく物語。ゲーム理論の一つである“囚人のジレンマ”を上手く活用している。
 「密室の抜け穴」は、張り込み中に忽然と姿を消してしまった犯人の行方と、事件の裏に隠された意外な事実を暴く物語。トリックは単純だが、やはり物語の構成が上手いので引き込まれてしまう。人間というのは“待つ”のが苦手な生き物なんだなぁと実感したりした。「ペルソナの微笑」は青酸カリを使った殺人事件に隠された、意外な犯人の物語。子供の頃に受けるトラウマとは何と残酷なものか、と思う。この手の犯罪をモチーフにした作品はいろいろあるが、ちょっと後味の悪い作品だ。「モノクロームの反転」は住宅街で起きた殺人事件と、その目撃証言との矛盾にまつわる物語。二つの強行班チームの確執と共に、真相が徐々に明らかになってゆく。どれもF県警強行班チームが扱った事件で、どれも探偵小説として見事な出来の短編集だ。
 短いストーリーの中に人間関係や事件の背景、過去のトラウマなどがぎっしりと書かれているのに、無駄なエピソードは一つもない。短編小説の良さがギュッとつまった作品だと思う。短編小説だがシリーズものなので、さくさくと読める良作だ。探偵小説好き、警察小説好き、どんでん返しミステリ好き、短編小説好き全てにお薦め!今後のシリーズ展開が大いに楽しみだ。
第三の時効 第三の時効
横山 秀夫 (2006/03/17)
集英社
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

クライマーズ・ハイ/横山秀夫
この題名から日航機墜落事故を結びつけるのは難しいだろう。私も昨年の年末にドラマ化されてなかったらノーチェックだったかもしれない。日航機墜落事故に関する書籍は諸々あるが、メディア側から事件を見た作品は少ないのではないだろうか。旧態依然とした地方新聞という立場、現場とトップとの認識の違い。そこら辺に普通にあるサラリーマンの葛藤を日航機墜落事故に絡めて描いた作品。群馬の地方紙だからこそ出来た、秀逸の設定に唸らされる。
 人間模様がテーマなので、登場人物の数も半端じゃない。ハッキリ言って覚えるのがちょっと大変だった…。翻訳物みたいに、巻頭に人物紹介ページが欲しかったくらいだ。それでも登場人物の全てにキチンとキャラクター設定がされていて、物語に奥行きを出している。人物がキチンと描けているからこそ、共感して感動するんだよね。この作者はそういう設定がホントに上手だ。
 ただし物語の方は…充分面白いんだけど、一流の社会派小説と呼ばれるには何かが足りない、そんな感じ。 肝心の山場での描写があっさりしてるんだよな~、それは『半落ち』の時にも感じたんだけども。物語のクライマックス、編集と販売が対立して立てこもるシーン。この結末は、テレビドラマの方がよっぽど感動的に描かれていたと思う。まぁ小説の方はそれ以外にも描かなきゃいけないエピソードが多かったせいもあると思うけど、ここはもう少し盛り上げても良いエピソードだったんじゃないかなぁ。
 記者としてのプライド。社会に対する責任と、公平性。旧態依然とした体質。ワンマンな社長。部下を自殺させてしまった悠木が抱える心の傷をえぐるような投書。題名の「クライマーズ・ハイ」とは、登山家が山を登っているうちにテンションが揚がってしまう状態を表す言葉だ。悠木は販売部の安西と登山する約束をしていたのだが、墜落事故があった夜に安西は病気で倒れてしまう。登山を通じて繋がる人間関係と、未曾有の大事故に関わった事によって変わってしまった男の人生をうまくミックスして描いた作品。ラスト、記者達の言葉に思わず落涙した。認められたり報われたり信頼されたりするのは嬉しいものなのだ。そう思われるのは幸せなのだ。サラリーマンが心のどこかに閉まっている感情を、優しく撫でられたような気分。日航機墜落事故の関連本と敬遠せずに、読んでみる価値アリの傑作。お勤めしてる人なら、何か感じるモノが絶対あるハズ!と思うな。

クライマーズ・ハイ クライマーズ・ハイ
横山 秀夫 (2006/06)
文藝春秋
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半落ち/横山秀夫
2003年の直木賞候補に挙げられながら、物語のオチに欠陥があると評価されて落選したという曰く付きの作品だ。映画化もされた程の名作でありながら問題になったそのオチとは一体何なのだろう?と興味津々で読んだのだが…。うーむ、確かにそのオチが事実と違うと分かっても、それ以上に何となくスッキリしない読後感。それは彼が二日間を“空白にしなければならなかった”という動機がいまいちピンと来なかったからかな…。まぁ彼のような気持ちになる人もいるでしょう。でもそれって、そんなに隠し通さなきゃいけない事??という気がしてしまうのよねぇ。以下はネタバレになるので、これから本書を読む方は要注意。
 殺害後、彼が歌舞伎町に行った事は確かだった。彼が以前骨髄を提供した患者が歌舞伎町のラーメン屋で働いているのを知っていたので、自決する前にその患者が元気になった姿を一目見たいと思ったのだ。 しかし彼は元気になった患者の姿を見て、骨髄提供者の登録が抹消される51歳の誕生日までに、せめてもう一人に骨髄を提供して命を分け与えたいーーと思うようになった。そして彼は自決を思いとどまって自首し、監獄の中でひたすら骨髄提供者に選ばれるのを待つ事にしたのだった。自分が歌舞伎町に行った事を話せば、骨髄提供者である事がバレてしまう。そのために彼は黙秘を続けるしかなかったのである。…という設定なのだが。
  問題のオチは「受刑者は骨髄提供者になれない」という骨髄バンクの見解があるため、梶が自決を思いとどまる動機に意味がなくなってしまう、という事らしい。この問題はミステリ界全体を巻き込んだ大騒動になったのだが、今は何事もなかったかのようにこうして文庫版も発売されている。まぁ私的には受刑者が提供者になれるかどうかはどっちでも良いや。ただ彼が「51歳の誕生日に自決する」事を匂わせておきながら、51歳までに骨髄提供者になりたいという目的を隠し通した意味がイマイチ分からん。彼が最初からその目的を話しておけば、関係者が何となく口をつぐみながら彼を見守っていかなきゃいけないという面倒な事態は避けられたのに…。まぁそこは物語なので、その黙秘がなければラストの感動はないと分かってはいるんだけどね。話の頭だけ話しておいて「やっぱ続きは話せないな~」と言われ、やっと続きを聞き出したらホントに大した事じゃなかったというガッカリ感というか。「え?そんな話をもったいぶってたの?」みたいな。いやそれでもラストでは思わず涙が滲んでしまった程じーんとする設定だったけどね。
  警察や検察、張り番の新聞記者との関係や裁判官の葛藤など、かなり内情を詳しく描写していて感心した。まぁ作者は新聞記者の経験があるからだろうけど、今までにないリアリティで面白かったなぁ。上記のような“オチの欠陥”なんかどうでも良くなってしまう位、物語に引き込まれてしまったよ。やっぱり梶が目的を言わなかった理由は分からないけど、そこにたどり着くまでの過程は秀逸の物語。特に印象に残ったのは、服役中の梶の様子を熱心に聞く刑事が刑務官に「警察は身内意識が強いですね」と言われた時の言葉だ。「いけませんか。組織の一員を助けるのは当然です。組織のために身を粉にして働いているのに、何かあった時には助けてくれない。そんな組織で働けますか」と彼は言う。組織を嫌ってきた私には目から鱗の名ゼリフだ。ま、それが実際キチンと行われている組織がどれくらいあるのか、は疑問ですけどね…。先が知りたくてどんどん読んで、最後にはホロッとさせられる。物語の構成も巧い。細かいところで気になる事もあるかもしれないが、読んで損はない名作である事に間違いはないでしょう。
半落ち 半落ち
横山 秀夫 (2005/09)
講談社
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